アコヤ真珠の加工というのは、養殖された真珠(原珠と呼びます)を3段階の加工工程を経てネックレスを作ることが主な仕事となっています。
1段階目:先ず穴あけ[機械的加工]
2段階目:しみ抜き(漂白)、調色[化学処理と研磨加工]
3段階目:選別、連組み[人手による加工]
それらすべての段階で真珠の「選別」作業が必要となり、「選別」は真珠加工の作業の中で基本となる重要な技術なのです。2段階目の加工は外注に出す会社も多いですが、1段階目と3段階目の作業は大体社内で行います。まだ真珠の仕事の経験が無い方でもわかるよう、各段階での「選別」についてできるだけ詳しく解説していきます。
これから真珠加工の会社の求人に応募したいと思っている方などの参考になれば幸いです。
アコヤ真珠の原珠(養殖真珠で未加工のもの)には一級品、二級品、三級品という分類があり、一級品は「浜揚げ」、二級品は「胴珠(どうだま)」、三級品は「スソ珠」という風に業界では呼んでいます。
海からアコヤ貝を引き揚げて貝から出した真珠は、簡単に言えば品質でまず上中下に分類されているということです。その上、中、下どれも均一な品質ではなく、基準となる品質よりも少しだけ悪いものや、逆に少しだけ良いものも少しずつ混じっています。
原珠は、品質的に良いものと悪いものが混じっているだけでなく、真珠の用途としてもイヤリング用の真珠とネックレス用の真珠が混じっています。イヤリング用の真珠は、珠の表面で一番きれいな面の反対側からドリルで珠の中心辺りまで穴を開けます。穴は貫通しておらず、このような真珠を「片穴」と呼んでいます。
それに対してネックレス用の真珠は、貫通する穴を開けます。この真珠を「両穴」と呼んでいます。両穴は二つの穴という意味ですが、実際両穴を開ける穴あけ機は珠の両側から2本のドリルを使って穴を開けるようになっています。
原珠の選別ではもう一つの分類があります。片穴にも両穴にも使えない、品質が悪い珠でこれを「ハネ」と言っています。
そこで原珠を選別するときは、一級品、二級品、三級品ともに真珠の用途によって以上の3種類(片穴用、両穴用、ハネ)に分けていきます。
これは、イヤリングなどに使われる真珠なので、キズが1カ所だけ、もしくは無キズの原珠であればOKです。そのキズの所に穴を開ければ、穴の裏側はキズのないきれいな面が現れるからです。無キズなら最もきれいな面の反対側に穴を開けるようにします。
もしキズが、真珠の表面の離れた場所に2カ所、3カ所以上ある場合は片穴には使えないので、その原珠は両穴用とします。
これは、ネックレス用の真珠のことで、片穴にならない真珠はすべてこの分類です。(ただし品質が悪いハネはダメです)珠にあるキズの所にドリルで穴を貫通して、穴明け作業の後に漂白と調色加工をしていきます。
大まかに言えば、片穴用の方がキズが少ない珠ということです。(会社によっては、特に良いネックレスを作るために、片穴用にできる上質の珠をわざと両穴にしてネックレスを作る場合もあります。)
これは、片穴にも両穴にも使えない品質の悪い珠で、より分けなければなりません。
この「ハネ」はどうなるかと言うと、品質が悪い珠の中でも、しみ抜きと調色加工をしてなんとかネックレスに使える珠については、特価品のネックレスとして出すことがあります。
特価品にもならない粗悪珠は、産業廃棄物として廃棄せざるを得ません。
貝から出した真珠は洗浄されて、養殖業者さんから真珠加工業者に販売されていきます。加工業者の方では仕入れた真珠を選別してさまざまな加工をしていくのですが、その選別の時にかすかに潮の香りがすることがあります。
おそらく海水の成分が、わずかに真珠に付着して残っているからだと思います。その香りを嗅ぐと、やはり真珠は海で生まれたものだなと感じてしまいます。これは真珠の加工業に携わる人でなければ体験することができないことです。出来上がったネックレスやイヤリングの真珠にはなんの香りもありません。
また、こんなこともあります。原珠で三級品の選別の際に、真珠を袋やざるに入れたりするのですが、その真珠に手を入れてかき混ぜたり、少し手に取って品質を確認したりします。そのような作業を繰り返しているうちに、だんだんと指の指紋の部分がガサガサしてくることがあるのです。
なぜかというと三級品の真珠は形が丸いものはあまりなく、小さな突起が出ている珠やバロックと言ってさまざまな形にゆがんだ真珠が多く含まれています。中にはゴツゴツしたものや、長い突起があるもの、羽が生えたような形をした真珠など、いろいろな形の真珠があるので、指の腹のところが、わずかに傷ついてくるからだと思います。
もち論ケガをするほどではないので、心配する必要はありませんが。これも一般の方の真珠のイメージからは、ちょっと想像しにくいことではないでしょうか。
原珠の選別で片穴用となった珠と両穴用となった珠は別々に管理され、どちらも「穴開け」された後「しみ抜き工程」に入ります。しみ抜き工程というのは、漂白液の入った瓶に真珠を漬けて漂白加工することです。
この漂白加工では大体3~4日おきに真珠を漂白液から出して洗浄した後、しみがすでに抜けてきれいになった真珠と、まだしみがある真珠とに分ける作業があります。この作業を「しみ選り(しみより)」と言っていますが、しみが抜けた珠は洗浄した後、次の調色工程へ回されます。
しみが残っている真珠は、再び漂白液に漬けられ、また3~4日漂白します。このような作業を3~4日ごとに繰り返していって、最終的にすべての真珠の漂白作業が終了します。すべて完了するまでには大体3~4カ月掛かります。
しみ抜き(漂白)が終わった真珠は次の「調色工程」に入ります。両穴も片穴も同様に調色をするのですが、ここでは量的に多い両穴用の真珠について説明します。
(調色というのはアコヤ真珠がもともと持っている、ほのかなピンク系の色を補強するための軽度の染色処理です。この処理によってアコヤ真珠の特有の上品さと、繊細な美しさが出てきます。)
調色によりきれいに仕上がった真珠は、最後の段階の選別作業を済ませることでネックレスやイヤリングになっていきます。調色後の真珠はまず形を「丸」と「変形」に分けます。
丸い真珠は次に「キズ」で数種類に分けられます。会社によって何種類に分けるかは違うと思いますが、大体は4段階ぐらいだと思います。
もち論、「無・小キズ」のランクが一番上です。
次に変形の珠は大体5種類ぐらいに分けます。
ややだ円形と、丸に小さな突起がある形については、キズの大きさでさらに上下2種類ぐらいに分けます。
真珠だけでなく農産物、果物などでも自然環境の中で作られるものは、すべて工業製品と違って全く同じものはなく、必ずある規格に基づいて選別して品質をそろえる、という作業が必要になってくるはずです。
真珠でネックレスやイヤリングを作る場合でも、極力よく似た同じような品質のものをそろえる必要があります。
ここまでは選別という仕事の実際の内容、品質基準などに関する話でした。
ここでは選別作業をしていくうえで、細かいものを見ることからくる目の疲れについてや、ずっと同じ姿勢で作業をすることによる肩の凝りなどについて解説します。
私も若い時この仕事(選別作業)をしていて、疲れたかどうかと言うと、疲れよりも肩が凝りましたね。
机の上にフェルト布を敷いて,その上で真珠を指や竹製のピンセットを使い、丸と変形に分けたりする訳ですが、ややうつむき加減の姿勢を半日とか一日中続けて作業をしていると、肩が凝る人が多いようです。
私は軽く肩を回したり、帰宅してから風呂に入ったりするぐらいで大体治りましたが、ひどい人はマッサージや肩こりに効く薬を貼ったり、飲んだりしているようです。
選別作業をしていて自分自身で気が付くことがあったのですが、きっちりと間違わずに選別しようとして集中していると、本来は力などいらない作業なのですが、無意識のうちに肩に力が入っていることがありました。これだけ肩に力を入れて一日中作業をしていたら、それは肩こりになるのも無理はないなという事に気づいたんです。
それ以来、肩の力を抜いて、珠を見ることだけに意識を集中するようにすれば、選別作業でのミスが減り、肩が凝ることもほとんどなくなったんです。これから選別のお仕事に就こうとされる方は、ぜひ「肩に力を入れない」ということを意識して作業をするようにしてみてください。きっと肩こりが出なくなると思いますよ。
次に疲れと言えば、目をよく使うので目がぼやけたり、かすんだりする目の疲れです。
ところでまず目の疲れの前に、遠視、近視ということを考えると、真珠の選別作業には近視の方が有利かなと思っています。私自身、近視で普段はメガネを使っていますが、机で真珠の選別をするときはメガネを外してやっています。近視の人は近くのものを見る時は、メガネを外した方がよく見えるからです。
少し横道にそれますが、色覚障害の人は真珠の色が分かりにくいので、真珠の選別の仕事には向いていません。この点は気を付けていただきたいです。
また遠視の人は、机の上にある真珠を見る時、メガネをかけて見ることになるので、一日中作業をする日などは目の疲れ方が大きいだろうと思います。なぜならレンズを通して真珠の細かいキズなどを見極めていかなければならないので、その分近視の人よりも疲れやすいはずです。
私は目がかすんできたかなと思った時はかすみ目の目薬などを時々使っています。
それから一日中同じ作業、単調な作業を続けていると、特に昼食後などは眠くなることがあります。その時は睡魔との戦いです。
そういう時は席から離れて、軽く背伸びをする、トイレに行く、お茶を飲むなどしてリフレッシュするのが良いです。職場によって違いはあるでしょうけれども、私の場合は昔からラジオをつけて、放送を聞きながら作業をしています。
そうすれば目を奪われたり、手を取られることはないので能率は落ちずに退屈もすることなく、一日、作業を続けやすくなります。
良い音楽を聴いたり、面白い話題に耳を傾けたりするのは、気分を良くしたり、体をリラックスさせてくれます。
こうして調色後の真珠が形やキズで選別されて一つのまとまった品質の真珠が出来上がります。このまとまりを「ロット」と呼んでいます。
一つのロットに分類される真珠の量が、ある程度のボリュームになればその真珠でネックレスを組むことができます。その作業のことを「連組み」と言っています。こうして海からとれた真珠が最終的にきれいなパールネックレスとなって、市場に送り出されます。
また、イヤリングは2つのよく似た片穴(バラ珠)をセットにすることで出来上がりますが、その作業を「ペア合わせ」と言っています。ペア合わせも多くの片穴の真珠の中から、大きさも色も形も、そして照りなどの品質も同じものを組み合わせなければならないので選別作業と同じかそれ以上の熟練を要します。
このようにパールネックレス、イヤリングというのは人の目による選別や連組み、といった手作業によって、手間暇かけることによって出来上がっているのです。
以上、ひととおり真珠加工の仕事について、特に選別作業に的を絞って解説させていただきました。
選別の仕事というのは、いろいろ混じり合った珠を、気長に少しずつより分けていくうちに、だんだんと品質がそろってきます。例えば丸と変形に分ける場合、最初は全部混じり合っているのが、きれいに丸ばかりになると一目で、ああ丸になった、他方は、ああ変形だと明瞭になってきます。
キズや色やさまざまな品質を選別できるようになると、けっこうやりがいも感じることができます。また、熟練の要る仕事は上達するのに時間はそれなりに掛かりますが、出来るようになった時の達成感、満足感というのもあります。
アコヤ真珠は日本の特産品なので、こういう技術を伝承していくことは日本における宝飾業にとって、とても大切なことではないでしょうか。
興味を感じられた方は、真珠加工の会社の求人に是非トライしていただきたいと思います。