決算の際、手持ち在庫商品の棚卸額の評価方法は、アコヤ真珠加工卸売業では「総平均法」を採るケースが大部分となっています。
在庫を原価で管理しようとしても、加工業ではネックレスを切ってバラ珠に戻してしまったり、バラ珠を使って連組み作業をしてネックレスを生産したりしますので、それぞれの在庫商品の原価を決定することは困難です。また時価評価で行こうとしても、それは税務当局の方で確認することができないという問題があります。
そこで「総平均法」を採用することで、仕入れた重量(目方)と金額のみを積み上げて、期首の在庫の重量、金額も加えてその全体の平均の単価、つまり「総平均単価」を出すのです。この単価が出れば、期末の重量に掛けることで期末の棚卸高が決定されます。売りの金額は全く関係してきません。
この方法なら真珠の時価評価は不要で、誰が計算しても仕入伝票に記載されている金額と重量のみで簡便に棚卸金額を出せる、というわけです。
これから真珠加工業の経理をしなければならない方に向けて、分かりやすく総平均法の説明をしてみたいと思います。
基本的な計算方法
まず最初に総平均法の骨組みとなる、基本的な計算方法を解説します。
期末棚卸時のアコヤ真珠の総平均単価は、次の式で求められます。
A)総平均単価=(期首アコヤ在庫金額+期中アコヤ仕入金額)÷(期首アコヤ目方+期中アコヤ仕入目方)
また期末のアコヤ真珠の目方は、 次の式で求められます。
W)期末目方=期首アコヤ目方+期中アコヤ仕入目方ー期中アコヤ売上目方
これら二つが求まれば棚卸額は次の式で求められます。
期末アコヤ棚卸金額 = A)総平均単価 × W)期末目方
目減り目方も考慮する
アコヤ真珠を原珠から加工してネックレスに仕上げるまでの工程で、穴明け、漂白、研磨のために、わずかですが真珠の重量が減ります。それを「目減り」と言っています。
例えば10貫、これは10,000匁(もんめ)ですが37,500gの珠を加工すると、通常10匁程度(37.5g)の目減りが発生します。
会社によってそれぞれ加工方法が異なるため、目減りの率はどこでも同じというわけではありません。
前出のW)期末目方の計算式で算出される値から、この目減り目方を減少させる必要があります。
目減り目方を出すには、まず帳簿上の目方を算出します。仕入れ、売上げごとに増加目方(仕入れで目方は増加)、減少目方(売上げで目方は減少)が商品出納帳に付けられているので、帳簿からひとまずアコヤ真珠の期末目方は出てきます。
一方、期末に実地棚卸をして、社内にあるすべてのアコヤ真珠商品の目方を測って集計することにより、正しい期末棚卸目方が出ます。この実地棚卸による 期末棚卸目方は目減りのために、帳簿上の期末目方より少し小さくなっているはずです。帳簿上算出される期末目方から、実地棚卸による期末目方を引いた値が目減り目方です。
ここで総平均単価と期末目方の求め方を図に示しておきます。イメージが湧きやすくなると思います。
図1は期首アコヤ在庫と期中アコヤ仕入の金額の合計を示したものです。これら合計の金額を合計の目方で割ったものが総平均単価です。これを式で表すと 総平均単価=(期首アコヤ在庫金額+期中アコヤ仕入金額)÷(期首アコヤ目方+期中アコヤ仕入目方)です。
図2の緑の部分は総目方から1年間に減少する目方を表しています。
図3は図2緑の部分を総目方から引いた残りで期末目方を表しています。この期末目方に総平均単価を掛ければ期末棚卸が算出できます。
付加価値額を考慮した総平均単価
アコヤ真珠の加工卸売業では原珠(養殖業者から仕入れたばかりの未加工の真珠)を穴明けした後、漂白、調色、研磨という作業をしたうえで、きれいに仕上がった真珠を選別し、連組み作業してネックレスを作ります。その各工程で人手や機械による加工が加えられることによって、付加価値が加わり、価値の高いネックレスや片穴が出来上がります。
この付加価値を加えることが税務当局から求められており、棚卸評価する際の総平均単価の計算式の中にも付加価値額を考慮する必要があるのです。税務上では付加価値とは、生産に必要な人件費や経費のこととされています。
また真珠加工業での利益は P)利益=売上-仕入-経費+期末棚卸-期首在庫 の式で求められます。
仕掛り品や製品に含まれる付加価値をゼロとして棚卸評価をしてしまうと期末棚卸がその分だけ小さくなるので式P)の利益が少なく出てしまいます。これは利益圧縮とみなされ税務当局から指摘を受けることになるので、適正な付加価値額を棚卸評価に加えることが必要なのです。
私自身の会社で当局から認められ長年採用している付加価値の計算方法を紹介します。(必ずしもこの方法である必要はありませんが、簡便でうまくいっております。)
1年間に発生した付加価値額は外注費の全額(税抜きで)と支払い給料の一部、私の会社の場合は20%としています。
つまり 付加価値額=外注費+給料×0.2 ・・・[f1] という式で表せます。
(ただし、この0.2という係数は会社ごとに異なりますので、自社の実情を考慮して決定してください。)
この額を総平均単価の計算式の分子に加えて
総平均単価=( 期首アコヤ在庫金額 + 期中アコヤ仕入金額 +付加価値額)÷( 期首アコヤ目方+期中アコヤ仕入目方 )
とします。
南洋真珠や金具類の棚卸を最後に付け加える
ここまでの話はすべてアコヤ真珠に関してのことで、会社がアコヤ真珠以外に南洋真珠を扱っている場合は南洋真珠の期末棚卸額を最後に合算する必要があります。
南洋真珠についてはネックレスやバラ珠を単に仕入れて、そのまま転売し、連組をしないとした場合、1品ごとに管理し、商品出納帳に出入りを付けるものとします。単純に売れずに残っている在庫の点数と金額を合計したものが期末の在庫高です。
(なお、もし南洋真珠もアコヤ真珠と同様に連組加工をする場合なら、南洋真珠だけで総平均法の計算をして、南洋真珠の棚卸金額を別に計算します。)
付加価値、南洋真珠、目減りを考慮した総平均法の計算
アコヤ真珠だけでなく南洋真珠も扱っている場合は
期首アコヤ在庫金額=期首在庫金額ー南洋等期首在庫金額
期中アコヤ仕入金額=期中仕入金額ー南洋等期中仕入金額
であることを考慮すれば、二つ前の段落で示した総平均単価の式は次のようになります。
総平均単価=( 期首在庫金額ー南洋等期首在庫金額 + 期中仕入金額ー南洋等期中仕入金額 +付加価値額)÷( 期首アコヤ目方+期中アコヤ仕入目方 ) ・・・[f2]
先ほどの図にもあるように期末目方は
期末目方=期首アコヤ目方+期中アコヤ仕入目方ー期中アコヤ売上目方ー目減り目方 ・・・[f3] で計算できます。
ここで南洋真珠は別管理という前提ですから、この式の中には南洋真珠は出てきません。だから期末目方、総平均単価というのはアコヤ真珠についての数値です。
結局、期末棚卸金額=期末目方×総平均単価+南洋等商品残 ・・・[f4] で全棚卸金額が算出されます。
なお、南洋等商品残は南洋真珠の商品出納帳の期末残高を使います。南洋真珠の在庫管理は、商品出納帳に南洋真珠の期首在庫金額から始めて、日々の出入りを付けておきます。そして期末になると商品出納帳を締めて、南洋真珠の期末棚卸金額が決定でき、それを[f4]の式に入れて期末棚卸金額が求められます。
実際的な数値の具体例で総平均法を説明すると
期末棚卸に必要な各項目の数値を、以下のようであったとした場合の期末棚卸金額を計算してみます。
- 期首在庫金額 =10,000,000円
- 南洋等期首在庫金額=800,000円
- 期首アコヤ目方=10,000匁
- 期中仕入金額=50,000,000円
- 南洋等期中仕入金額=2,000,000円
- 期中アコヤ仕入目方=48,000匁
- 期中アコヤ売上目方=50,000匁
- 外注費(年間、税抜き)=1,000,000円
- 年間給料の一部=12,000,000×0.2=2,400,000円
- 目減り目方=50匁
- 南洋等商品残=1,000,000円
以上の11項目のデータがそろうと期末の棚卸金額は以下のようにして、f1~f4の式を使って自動的に計算ができます。
- まず付加価値額は [f1]の式から 1,000,000+2,400,000=3,400,000円
- 総平均単価は [f2]の式から (10,000,000-800,000+50,000,000-2,000,000+3,400,000)÷(10,000+48,000)=1,044.83円/匁
- 期末目方は [f3]の式から 10,000+48,000-50,000-50=7,950匁
- 期末棚卸金額は [f4]の式から 7,950×1,044.83+1,000,000=9,306,398円
このようにして各f1~f4の式にデータを代入していけば、期末の棚卸金額が計算できます。
まとめ
- アコヤ真珠加工卸売業では大部分の会社が、在庫の棚卸評価方法として「総平均法」を採っている。
- 総平均法ではアコヤ真珠の期首在庫と期中仕入の金額の合計を総目方で割ることで総平均単価を算出する。
- 期末目方を決定する際、実地棚卸で求めた目減り目方も計算に入れる。
- 総平均単価の計算には付加価値も含める必要がある。
- 南洋真珠も扱っている場合はアコヤ真珠の棚卸計算のあと、最後に南洋真珠の在庫を加える。
税務当局も各業種別に決算や棚卸評価についての注意点や解説を出していないので、私の方で真珠加工業ではどのような経理をすれば良いかのガイドをさせていただきました。
関係する方の参考になれば幸いです。
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