アコヤ真珠加工業は仕入れが重要!値段の評価方法を詳細解説

真珠加工業というのは、アコヤ真珠を養殖業者さんから仕入れて、穴あけ、しみ抜き、調色、連組みをしてネックレスを生産・販売していくことがその主な仕事になるのですが、この記事では一連の仕事の中で特にアコヤ真珠の「仕入れ」にスポットをあてて説明します。

よく商売における格言で「利は元にあり」というのがありますが、真珠加工業の場合でも、その商材であるアコヤ真珠をいかにうまく仕入れるかということが、その後の商売の利益に直結してしまうことになるのです。

アコヤ真珠の生産(養殖)は年に1回のサイクルで行われています。

アコヤ真珠の販売時期も年末~翌年の2月ぐらいまでと、ほぼ決まっています。

そのためアコヤ真珠は基本的には、その時期にしか仕入れることができないのです。

ブローカーと言われる、仲買業者から購入する場合は、その時期以外でもアコヤ真珠の商材があれば仕入れは可能ですが、全体からするとその割合は大きくはないです。

◆この記事ではアコヤ真珠の仕入れ方法と、仕入れる際の値段の決め方について解説しています。

◆また入札会での仕事の流れも説明していますので、真珠の仕事に興味を持たれている方はぜひ参考にしてください。

アコヤ真珠仕入れの主要な舞台は入札会

アコヤ真珠の仕入れ方法として代表的なものは、浜揚げ時期(養殖真珠を貝から取り出して販売する時期)に各真珠養殖場の近くで開催される「入札会」と呼ばれる販売会です。

入札会は愛媛県、三重県、長崎県など真珠養殖の産業がある各県において、その県の漁業協同組合が主催して開催されます。入札会ではその地方の多数の真珠養殖業者が入札会場に一堂に会して、数日間にわたって各社が生産した真珠を出品します。

一方、買い手である加工業者を、全国から入札会に招いて、出品された真珠に投票形式で値段を付けてもらいます。最高の値段を付けた買い手にその真珠を売るか、またはその値段が不満足なら売らない(これを「引き」という)という決定をしていくものです。

1シーズン(年末12月から翌年2月ぐらいまで)の間に同じ会場で数回は開催されます。各地の入札会は日程がなるべく重ならないように調整されて実施されます。ちなみに2020年度はコロナの影響で日程が3カ月ほど後ろ倒しになり、会場も愛媛と三重のみに集約されました。(通常なら12月、1月、2月開催)

3月は三重県のみで3回、14日間入札が開かれました。

4月は愛媛が3回、21日間、それと重ならない日程で三重が1回、6日間。

5月は愛媛のみ1回、11日間の開催予定となっています。

入札会以外にどんな仕入れの形態があるか?

示談会での仕入れ

生産されたアコヤ真珠の大部分は入札会にかけられ、販売されていきますが、入札会には出さず真珠養殖業者の事務所で、個別の売り先と直接取引されることもあります。そういう取引を「示談会」といいます。

買い手にとっては入札会よりも示談会の方が、品物の評価(値決めのこと)は落ち着いて時間をかけてすることが出来るので、やりやすい面があります。しかし逆に相手との直接交渉になるので、駆け引きがあって難しい面もあります。

養殖業者の方が高い値段を言う場合が多く、話に乗せられてしまい買い手にとって危険、つまり高い買い物をさせられる可能性を含んでいます。

だから入札会で公平な条件で取引するのが良いか、示談会で交渉力を発揮して上手に仕入れするか、どちらも一長一短があるということです。

ブローカーからの仕入れ

またさらに別の仕入れ方法としては、「ブローカーからの購入」という手もあります。しかしブローカーとの取引は、仕入れシーズンよりも少し後の時期になることが多いです。ブローカー自身が、仕入れた真珠の選別をするのに、ある程度の時間がかかるためです。

一年間の中でアコヤ真珠の仕入れシーズンは12月から翌年の2月ぐらいまでとなっているので、入札会で予定数量の真珠が買えなかった場合には、補充的にシーズン終了後にブローカーと取引して真珠を買い付けることがあります。

しかしブローカーとの取引には注意が必要です。ブローカーは原珠(未加工のアコヤ真珠)のプロですので、ブローカーの販売する真珠はうまく選別されていて、見た目としてはよく見える真珠であることが多いです。しかし見た目が良くても、本当の品質が良くないとその真珠を加工したときに、思ったほどの品質に仕上がらない、という事が起きることがあります。

そのようなことが起きる原因として考えられることは、ブローカーの場合は複数の養殖業者から仕入れた真珠を混ぜたり、産地が異なる真珠を混ぜたりすることが多いためです。なのでブローカーから真珠を仕入れる時は、見た目が良くても品質が悪い珠が混じっている場合もある、という点を覚悟したうえで取引する必要があります。

同じブローカーと何年も取引が続いていてうまくいっている場合など、信頼関係が出来ている場合は問題ないでしょう。

真珠は金額の大きい商材なので、特に仕入れの際には失敗のないようにしていかなければなりません。

真珠を見る場所の光が大事

入札会、示談会、ブローカー、どの方法で仕入れるにしても、真珠を見る時に最も重要なことは、真珠を見る場所が暗かったり、逆に明るすぎたりしていないかという事です。

暗い所では、よく見えないので正確に品質を判断することができないし、明るすぎると真珠の照りが実際以上に良く見えてしまうからです。程よい明るさの場所を見つけて、そこでじっくり真珠を見るようにしなければなりません。

真珠の評価(値決め)の方法

アコヤ真珠はある程度まとまった量のかたまりで取引されます。このひと固まりを「ロット」と言っています。

ロットになった真珠の一部を手でつかみ取り、目で見て欲しいものかどうか判断します。欲しいものなら値段はいくらと見るべきかを考えなければなりません。

アコヤ真珠の値段には相場というものがあります。そのシーズンにおいて、例えば7ミリの真珠で中級品(二級品とか胴珠とか言います)ならいくらぐらい、という目安はあります。

しかし、今目の前にあるロットが、その相場の基準となる品質とまったく同じという事はなく、基準より少し下の品質だったり、少し上の品質だったりします。またロット自体が不ぞろいでいろいろな品質の真珠が混じっている場合も多いです。

そういう混じったものの値決めはどうすれば良いか?大体、加工業者の仕入れ担当者は二通りの方法のどちらか、または場合によって両方のやり方で仕入れをしているようです。

一つ目は分析して値決めする。

二つ目はパッと見た感じで決める。「姿」で評価するとも言います。

分析して値段を決める

まず、値段を決めることを「評価する」と言います。そして値段というのはあくまで「単価」です。単価というのは真珠取引の場合は「1匁(もんめ)」つまり3.75gあたりの値段を言います。

ロット全体の金額は単価さえ決まれば、全量の重さ(匁)を掛け算すれば算出できます。ということで値決めする、評価するという場合は単価を決めるという意味です。

では分析して値段を決める方法はと言うと、混じった状態の真珠を例えば良い品質と悪い品質の2種類に分けてそれぞれの値段をまず決めます。

混じった状態の真珠では評価が難しくても、上下2種類に分ければ品質がそろっているので、その2種類の値段は出しやすくなります。次にその2種類の割合を出します。例えば上の品質が4割あり、下の品質が6割あるという風に。

そうすると元のロットの単価は、上の値段(単価)×0.4+下の値段×0.6で算出できます。

品質の上下に分けるやり方は、手でつかんだ真珠を例えば左の手のひらの上に乗せ、右手の指で悪い品質の珠をつまみ出して右手の中に集めていきます。そうするとより分け作業が終わると、左手には上の品質の珠が集められ、右手には下の品質の珠が集められています。

左利きの人なら、右と左が逆になると思います。布の上に一つかみの真珠を広げて、指やピンセットでより分けても良いですが、入札会場で大勢の入札者が出席されている場合は、会場が混み合っていて、そのようなことをする場所や時間が取れない場合が多いので、両手の指と手のひらを使って値決めするのが基本です。

両掌の上に40~50粒の真珠があり、左手には良い品質の真珠が、右手には悪い品質の真珠が乗っている。
左手は良い品質で、右手は悪い品質の真珠

この写真なら品質の上下の比率はほぼ1:1で、割合は0.5と0.5になり、仮にそれぞれの値段が2000円と800円だとした場合なら、値段は2000×0.5+800×0.5で1400円です。

パッと見た姿で値決めする方法

今度は分析ではなく、ロットの真珠をひとつかみ手で取ったら、手のひらの上で真珠を広げ全体をよく見ます。

利き手でない方の手のひらの上に、一掴みの真珠が乗っている画像
ロットのサンプルとして片手に真珠を広げる

手のひらの真珠をよく見て、良い珠と悪い珠がどの程度の量だけ入っているかを検討します。

全体の珠の品質を頭に置きながら、計算はせずに「直観的に」、相場の基準となる品質の何割上とか下とかを判断します。例えば相場の基準より2割ぐらい下と見れば、相場の値段×0.8で評価ができるという感じです。

この方法の方が、分析する方法よりも早く評価ができます。

しかしこの方法で評価するには、相当数多くのロットの真珠を見て、評価に関しての経験を積んでいないとなかなか難しいでしょう。不慣れな段階でこの方法で評価をすると、どうしても誤差が出てしまうでしょう。

私の場合も、仕入れの仕事に就くようになって最初の5年ぐらいは、分析法でやっていたと思います。そのうちに徐々に慣れてきて、パッと見た姿での評価もできるようになりましたが、分析法の方が正確性が高いです。

入札会で100点、200点、300点と多数の品物の評価作業を続けていくと、その都度分析をしなくても自然に姿による評価が徐々にできるようになってきます。ただロットが大きいためにその仕入金額がかなり大きくなる場合などは、慎重に値決めをする必要があるので、分析して決定することが多いと思います。

入札会での仕事の流れと失敗談

入札会は愛媛、三重、長崎、大分、熊本、佐賀などの県でアコヤ真珠の浜揚げのシーズンに開催されますがどこの入札会もその仕組みは同じです。

一直線や、コの字型に並べられた長い机の上に、1日で200点とか300点という数のアコヤ真珠の出品が並べられます。出品されるのはロットの全量ではなく、その一部分、大体200~300匁ぐらいをサンプルとして、お風呂で使う洗面器ぐらいの容器に入れて出品されます。ただ元のロットが少量の場合は、例えば100匁しかないロットならその100匁が出品されます。

長い机の両側に買い手の業者が着席し、机の真ん中に出品物が置かれるのですが、出品の品物と入札の投票箱が縁のあるお盆に乗せられて、そのお盆がずらっと一列に並べられます。

出品1点に必ず投票箱も一つセットされています。

見終わった出品物は一方向へ順送りされて、出席者全員が全部の出品物を見て入札できるようになっています。この方式を「回覧式」と言っています。

また「展示方式」と言って、机の上に出品物が並べられていて、品物はそのままの位置で動かさずに、出席者の方がそれぞれの品物を見るために、立って移動して入札することもあります。三級品の入札などで出品点数が多い場合には、展示方式になることが多いです。

また「出品表」というノートを配られることが多いです。出品表には、出品番号、品種(サイズ)、目方、単価、金額、売り/引き、などが書けるようになっています。

そのノートに自分が評価した単価を記入し、購入したい場合は目方をかけて金額を計算し、ノートに記入するとともに、入札用の投票用紙に出品番号、金額、自社の社名を記入します。そして出品の品物の横に置かれている投票箱に、書いた投票用紙を入れます。この行為を「入札」と言っています。

会場では時間を決めて投票が締め切られ、その後事務局の方で開票作業がなされ、全出品に対してそれぞれの入札最高値を後で発表します。ただ出品者(養殖業者)がその値段に不満がある時は売買は不成立です。それを「引き」と言っています。

売買成立なら「売り」です。誰も入札しなかった品物は「無札」と発表されます。

「売り」と「引き」の発表では、出品番号、金額、入札者の名前を告げます。

ひと桁間違ってヒヤリとした話

入札の投票は出品点数が多い場合は作業が忙しくなります。1点1点評価していくだけでも、なかなか大変な作業ですけれども、展示方式の入札会で入札参加者が多い時は、一つの品物に対して2社が同時にサンプルを取ろうとして手がぶつかったりすることもよくあります。

会場が混雑しているときは、人をかき分けてお目当ての出品物に手を伸ばして、ひとつかみの真珠を手に取り、それを分析して値決めして、電卓で金額を計算して投票用紙に番号、金額を書く。つかんだ真珠は、評価作業が終わればまた元の場所に戻します。

これだけの作業を何十点、何百点と進めていくのは結構な重労働です。そのように忙しくしていると、つい計算を間違えたりすることは人間なので、ないとは言い切れません。しかし、投票用紙に金額を書いて投票した以上は責任を持たなければならない。

1桁大きな数字を書くというミスを私はもう20年ぐらい前ですがやってしまいました。投票がひととおり終わって、少し休憩しているとき、事務局の人からちょっと奥の方に来てください、と言われたのです。

何事かと思い行ってみると、あなたの札は2番目の金額の人よりも何倍も高い値段ですが大丈夫ですか、ということでした。ノートを調べると計算するときに1桁大きな金額を書いてしまっていたようで、例えば56,000円と書くべきところを560,000円と書いてしまっていたのです。

一瞬血の気が引く思いをしました。しかし事務局の人が数人で協議をした後、2番目に高い札の金額に少し上乗せした金額に修正してもらえますか、と言われました。

これによってこちらの被る損害は最小で抑えられました。時の運というか、温情なのか、まあラッキーだったと思います。結果はほっとできたのですが、その時「入札会での計算ミスは絶対にしないようにしよう」と肝に銘じたのでした。

他の会社の人も、似たようなことを経験されているかもしれません。人間は失敗して成長する、とはよく言われる格言ですが、私もそのミスはそれ以後はやっておりません。

まとめ

  • アコヤ真珠の加工業で一番重要ともいえる仕事は仕入れです。
  • 仕入れの主な機会は入札会となっています。
  • 仕入れの他の方法は示談会や、ブローカーからの購入というのもありますが、ブローカーについては注意が必要です。
  • アコヤ真珠の値決めには分析による方法と、姿での評価方法とがあります。
  • 真珠の入札会においては、計算間違いは大きなミスとなるので、十分な注意が必要です。

アコヤ真珠加工業における仕入れの重要性について書かせていただきましたが、もち論加工の技術や営業力など他にも大切な要素はあります。しかしいろいろある仕事の中でも、仕入れが事業の業績に与える影響が最も大きい分野なので、今回この記事を書くことにいたしました。

コメント

  1. ひこにゃん より:

    大変面白い内容で楽しく読ませていただきました。
    最近真珠の美しさに目覚め、色々勉強している者ですが、やはり実物を見て勉強するのが1番だとつくづく感じています。
    神戸の真珠会社では、一般人向けの実習やワークショップなど開催されていないでしょうか。
    真珠検定というものもあるようですが、どちらかというと座学のイメージを受けます。
    真珠にハマりすぎて、神戸の会社にバイトに行きたいぐらいです。

    • 2ndlife より:

      記事をお読みいただきありがとうございます。
      真珠の仕事は、記事に書きました仕入れにしても、珠の選別・連組み、勿論営業などもありますが
      いずれも内容が専門的で、作業も熟練が必要です。
      ですから、バイトというよりは社員として入って、じっくり仕事を憶えていくという感じです。
      体験学習のようなものがあれば、一番良いのでしょうが、残念ながらそれは無いと思います。
      少しではありますが、神戸の真珠加工の会社で求人を出しているところがあるようなので
      ご興味があるのでしたら、応募されてはいかがかと思います。
      なお、真珠検定は真珠の販売員に対する、教育を主眼としているようですので、販売に携わりたいとお考えなら
      良いものかもしれません。
      今後、益々真珠のことを好きになっていってください。ありがとうございました。